では実際にどのような準備をしておけばよいのでしょうか。 まずは、新規指導の流れを簡単にお話ししましょう。
1、新規指導の通知
新規開業から1年くらい経った頃、関東信越厚生局から書留で「新規指導の通知」が届 きます。これは新規指導やりますよというお知らせです。 この中には、新規指導の日程、場所、持参物、当日提出する診療所概要の書面が入っています。 この後、新規指導日の4日前に対象となる患者リストが届き、そこから本当の準備が始まります。 通知が届いた時点でできる事はごくわずかです。 当日持参する持ち物として記載されているのは、次のとおりです。
①診療録(保険診療から自費診療に移行した場合は、自費診療分も含む)
②歯科衛生士業務記録簿、歯科技工指示書及び納品書
③X線フィルム(パノラマ、デンタル等)及び口腔内カラー写真 (ただし、デジタル映像として電子媒体に保存している場合にあっては、当該映像をプリントアウトしたもの)
④スタディーモデル・並行測定模型及び未装着技工物 【①~④については後日送られてくる患者リストの全員の初診時から現在までのもの(保存期間を終了していない記録が対象)。 初診時とは、直近の初診日ではなく、当該医療機関に始めて受信した日をいう(遡及指定の場合は前医療機関も含む)。】
⑤その他、新料及び請求に関する帳票類 [患者ごとの一部負担金徴収に係る日計表・・・約1年分(通知に期間が記載されています。)] [予約簿(アポ帳)・・・約1年分(通知に期間が記載されています。)]
⑥様式(領収書、明細書、処方箋の様式(いずれもコピーでも可)) (処方箋の様式は、院外処方箋を発行している場合。複写式の処方箋を発行している場合は、発行済みの控えを持参)
⑦診療報酬請求事務を外部委託している場合は、その契約書など。
⑧別紙「保険医療機関の概要」(ご記入の上ご持参下さい。)
⑨保健医の登録票「保険医療機関の概要」(記入のうえ持参)
⑩解説者の印鑑
この時点で準備できるのは、
⑧保険医療機関の概要への記入
⑥明細書、領収書、処方箋の様式
⑤開業時からの日計表(窓口での一部負担金がわかるもの)、アポイント帳をそろえる事くらいです。
そして、新規指導4日前からのアポイントは極力入れないようにして、診療するなら急患対応だけにする方が良いでしょう。 ほとんどの先生が、「しんどい」と言われますので・・・。
後は対象患者のリストが届くまで、ドキドキしながら待つしかありません。
ここで先生方にお伝えしたいのは、新規指導は準備がしんどいですが、不正請求がなければ、決して怖いものではありません。 しっかり準備しておけば問題ありません。 当日どんな指摘を受けるかは、正直担当になった技官がどんな人かによります。ある意味ここは「運」です。 当日辛辣な指摘を受けたとしても、言い訳したり、落ち込まず、「しっかり改善していきます」という気持ちを表す事が大切です。 技官も歯科医師ですし、今は昔と違い暴言等により追い込むような事まではしてきません。
2、対象患者のリストの通知
さてここからが本番です。 以前届いていた「新規指導の通」の内容を確認しながら、対象患者ごとに持参物をまとめていきます。 持参物の範囲は、対象患者の初診時から直近に来院された日までです。 それではそれぞれの持参物について、何が大切かを一つずつ解説します。 ①診療録(カルテ) まずはカルテについてです。これが最も重要です。 カルテには、患者の主訴、先生の所見、診断、治療方針、処置内容、経過観察、患者の同意を得ているかなど、患者さんを診察し処置を行った内容が全て記載されていなければなりません。 レセコンで入力して点数と会計だけが入っている状態は、「請求内容」が出ているだけで、「カルテ」と言えるものではありません。 そして、本来であれば、カルテは診療が終わった時点でその都度入力し、印刷されていないといけないものとされています。 簡単に言うと「診療日記」のようになっていないといけないわけです。 つまり、患者リストが届いた時点で、カルテは既に印刷されていて、ただまとめるだけというのが本来の流れになります。 しかし・・・・実際は、診療が終わる度にカルテを書くなんてできませんよね・・・・。大体は手書きのメモにその日の処置内容や、患者さんの様子、経過を走り書きで残しているはずです。 ですから、その走り書きを元に、しっかりした文書を起こしていく作業をしなければいけないわけです。 カルテは診療日記です。 患者さんの主訴から始まり、何故その処置をしたのか、そしてその結果はどうなったのか。つまり原因と結果がはっきりしていることが大切です。 順番としては、常に、「先生の所見」、「診断」、「診療方針」、「患者の同意」、「処置の内容」、「経過」の順番で書かれている事になります。 こう書くとなかなか難しく聞こえますが、実はたいしたことではなく、先生方が普段診療される時にやっていること、そのものなのです。 先生方は、患者さんが来院されたら、 「どうなさいましたか?」と主訴を確認します。 口の中をみて「~の状態なので詳しく見るためにレントゲン撮らせて下さい」と同意を得ます。 レントゲンを見て「この歯の根っこが~になってます。おそらく原因は~です。ここも~です。他にも・・・」と説明し、 「まず、これを治療して、次に~をして、落ち着いたら~の治療をしていきましょう。よろしいですか?」と説明して同意を得ます。 そして処置を行い。次回アポイントをとります。 次に来院されたとき「前回~の治療をしましたが今はいかがですか?」と経過を確認し 「では今日は前回の続きで~を行います。よろしいですか?」と治療方針の説明と同意を得ます。 このように。カルテは先生方の言葉で常日頃の診療の内容を書いていけばいいだけなのです。 しかし、ただ単に書いていけばいいわけではなく、それぞれ算定した点数には、算定の条件がありますので、それも踏まえて書いていくことも忘れてはいけません。 非常にオーソドックスな流れで記載事項を列挙してみると次のような形になります。 ①初診時 ・主訴・・・右上の奥歯が痛い。他にも虫歯がないか気になる。悪いところは全部直して欲しい。 ・所見・・・主訴はもちろん、他の部位、Pの状態、欠損があれば欠損について、義歯があれば義歯について、
先生が確認できた口腔内の状態を記載します。 ・画像診断・・・所見に基づき、画像診断が必要な理由、患者の同意、画像の診断内容、今後予想される症状 ・検査・・・P検査をするのであればその必要性。患者の同意、P検査後の診断内容。 ・歯管・・・画像診断、検査からわかったことのまとめ、考察、治療計画、方針、患者の同意、患者さんの生活習慣との関係性について。 ・処置・・・その処置の必要性、患者の同意。 ・次回の予定 ②再診時 ・経過・・・前回行った処置後の症状、経過の確認。先生の考察。予定と処置内容が変わる場合は、その理由。 ・画像診断・・・画像診断の必要性、患者の同意、画像の診断内容、考察。 ・処置・・・処置の必要性。患者の同意。 ・検査・・・検査の必要性、患者の同意、検査の結果の考察。 ・次回の予定 ③月が変わった時の再診時 ・経過・・・前回行った処置後の症状、経過の確認。先生の考察。予定と処置内容が変わる場合は、その理由。 ・歯管・・・いままでの処置の経過、考察、これからの治療計画、方針、患者の同意、患者の生活習慣について。 治療計画の変更があればそれも記載する。歯管は算定する度に同じ項目の記載が必要になります。 治療が進めば症状はどんどん変わっていくので、同じ内容になる事は理論的におかしいです。 ・画像診断・・・画像診断の必要性、患者の同意、画像の診断内容、考察。 ・処置・・・処置の必要性。患者の同意。 ・検査・・・検査の必要性、患者の同意、検査の結果の考察。 ・次回の予定 以上のようになります。 ですので、流れの中で診断時にも触れておらず、画像診断でも触れず、その後も特に記載していなかった処置が突然出てくると、 審査員は「あれ?なんで突然この処置をやることになったんだ?」となるわけです。 こんな場合でも、今までの経過を踏まえて、どうして突然その処置が必要になったのかが書かれていれば、問題のないカルテと言えます。 ②歯科衛生士業務記録簿、歯科技工指示書及び納品書(患者さんへの提供文書) 通知には「歯科衛生士業務記録簿、歯科技工指示書及び納品書」と書かれていますが、歯科疾患管理料の控えや歯科衛生実地 指導の控えも持って行った方が良いです。 ○歯科衛生士業務記録簿 処置を算定した場合に患者さんへ提供しなければいけない文書と時期は次のとおりです。 ・歯科疾患管理料(歯管)・・・4カ月に1回(中3カ月)。但し患者さん自信が1回目の文書に、以後は不要な旨を記載した場合はその後の文書提供は不要。 ・歯科衛生実地指導料(実地指)・・・3カ月に1回。(中2カ月) 文書提供は3カ月ごとですが、歯科衛生士の業務記録は、実地指を算定するたびに必要です。 ・補綴物維持管理料(補管)・・・算定の都度。 ・新製有床義歯管理料(義管)・・・新製義歯を装着し、義管を算定した時。 これらは当然のことながら、カルテの内容と一致していないといけません。 実地指は衛生士が行う処置ですが、「歯科医師の指示に基づき・・・」とされていますので、カルテと一致していることになります。
○技工指示書、納品書 補綴物を作製に欠かせない書類です。 こちらも当然のことながら、請求と指示内容、納品された補綴物が全て一致していることが当たり前です。 コアまで保険で請求して、補綴を自費にしていたり、ワイヤークラスプを鋳造鉤で請求しているような場合、監査の対象になることは間違いないでしょう。 もし、新規指導時に発覚した場合、速やかに取り下げ請求を行い、正しい算定で再請求すべきです。 先述したように、不正請求は致命的な問題ですので、常に正しい算定を心がけて下さい。 ・技工指示書について 先生方の技工指示書を見てみると、「年月日、患者名、技工所の住所、部位、FMC、よろしくおねがいします。」しか書かれてなく、 先生の指示内容の記載がないものが多いですが、これはメモ書きであって、「指示書」ではありません。 指示書ですから、先生の「指示」が必要です。「金属は何で作るのか?補綴物は何か?咬合面の高さは?マージンは?コンタクトは?」等、通常補綴物を作ろうとすれば当然にこのような事をどうするのかの問題が生じます。 指示事項をしっかり記載するように心がけて下さい。 ・納品書について 納品書は技工指示書の内容どおりに作製された補綴物について、製作料が記載されています。 大切なのは納品書が請求した補綴物と同じ内容であることと、金属の種類と使用量の記載があることです。 金属の種類と使用量の記載がないと、シルバーで作製してパラで請求しているのではないかと嫌疑をかけられますので、はっきりと記載してあるようにしましょう。 もし、自院で購入して預けている場合は、それがはっきりわかるような伝票も用意しておくと良いです。 ③パノラマ、デンタル 言うまでもありませんが、算定したパノラマ、デンタルは全て持参します。 なくしたでは済まされませんので、しっかり管理しましょう。 もし、デンタルの撮影に不備があって持って行きたくなくても、なくしたと言うよりは、当日に注意を受けた方が良いです。 例えば、加圧根充をして、確認のデンタルを撮影したが、根尖が切れてしまっているような場合、正直に持っていけば注意で済みます。 査定されても、加圧根充とデンタルの費用を返還するくらいです。しかし、なくしたと言うと、デンタルを撮ってないのに算定しているのではないかと思われ不正請求の疑いをもたれることになります。ごまかそうとはせず、正直に謝る方が良いです。 ④スタディーモデル・並行測定模型及び未装着技工物 ・スタディモデル・・・2010年4月改正で点数がなくなったため、保存義務はありません。 スダディモデルで説明したいことがあるなら持参すれば良いですが、基本的には必要ないです。 ・並行測定模型・・・製作したBrの支台歯とポンティック部分を合わせた歯数が6歯以上であれば、並行測定模型を3年以上保存しなければならない義務があります。(5歯以下には保存義務がありません。) 6歯以上のBrを製作している場合には持参する必要があります。 ・未装着技工物・・・対象患者に未装着技工物があれば持参しましょう。 可着の状態で、任意未来院となっている場合は、その旨をカルテに記載します。 この場合、未来院請求が可能です。 ⑤その他、新料及び請求に関する帳票類 ・患者ごとの一部負担金徴収に係る日計表 通知に記載されている期間の日計表を持参します(約1年分)。 持参した日計表で、保険請求があった分の一部負担金を過不足なく徴収しているかがチェックされます。 一部負担金は本来過不足があってはいけなく、算定に誤りがあり、会計後に修正した場合の過不足は、患者さんに返金するか、不足分を徴収しなくてはいけません。 返金しない事、不足分を徴収しない事、どちらも療養担当規則違反となり、不正請求とみなされます。 患者さんが来院しなくなり、返金や徴収できない場合等、どうしても過不足が生じてしまう場合は、その旨をカルテに記載しておきましょう。 ・予約簿(アポ帳) 通知に記載された期間(約1年分)を持参します。 実地指導の時間の確認や、来院日のチェックに使用されます。 ⑥様式(領収書、明細書、処方箋の様式(いずれもコピーでも可)) (処方箋の様式は、院外処方箋を発行している場合。複写式の処方箋を発行している場合は、発行済みの控えを持参) ・文字どおりそれぞれの様式をコピーして持参します。
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